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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)12号 判決

原告 スチュワート商事株式会社

被告 東京国税局長

訴訟代理人 山田二郎 外四名

主文

被告が原告に対し、昭和四三年五月一八日付でした滞納者森山通商株式会社にかかる第二次納税義務に基づく納付告知処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文と同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二当事者双方の主張

一  原告主張の請求の原因

(一)  被告は、昭和四三年五月一八日、原告に対し、訴外森山通商株式会社を納税者とする昭和三九年度の左記国税等につき、金五一五八万九六五〇円を限度額として第二次納税義務に基づく納付告知をした。

税目 本税 加算税 延滞税

法人税  三九、四九〇円 要

同 一、六〇八、七〇〇円 八〇、四〇〇円 同

源泉所得税 六、〇〇〇円    六〇〇円 同

同     五、〇〇〇円    五〇〇円 同

物品税           七、四〇〇円 二、四四〇円

同             一、四〇〇円

(二)  原告は、昭和四三年六月一八日、被告に対し右告知を不服として異議の申立てをしたが、被告は同年九月二一日右申立てを棄却し、右棄却の決定書謄本は同年一〇月二四日原告方に送達された。

(三)  被告のした右第二次納税義務に基づく納付告知処分は違法であるから取消しを求める。

二  被告の認否および主張

(一)  請求原因事実(一)(二)を認め(三)を争う。

(二)  (処分の適法性)

原告は、国税徴収法第三八条の規定により訴外滞納者森山通商株式会社(以下「訴外会社」という。)の滞納国税につき、第二次納税義務を負うものである。次に第二次納税義務を賦課した根拠を明らかにする。

(1) 訴外会社は、昭和三五年六月二一日銑鉄鋳物製品の製造販売および輸出入販売等を目的として設立され、本店を千代田区神田淡路町一丁目九番地(昭和三七年八月二〇日に本店を千代田区神田鎌倉町三番地に移転した。)と定め、さらに昭和四〇年五月二五日には千代田区神田須田町二丁目七番地(訴外株式会社佐藤商店所有ビルの一室)に移転し営業していたところ、昭和四〇年七月二七日原告主張の前記国税を納付しないまま解散し、同年八月二〇日付契約に基づき、右滞納国税を除き、殆んどすべての資産負債を原告会社に譲渡して無資産となつたため、被告は、右国税の徴収が不能となつた。

なお、訴外会社の滞納国税のうち、源泉所得税および法人税は昭和四〇年三月一六日に決定されたものであり、法定納期限の最近のものは法人税についての昭和三九年一〇月三一日である。

(2) 原告は、昭和四〇年四月五日株式会社森山通商の商号で訴外会社と同じ事業目的をもつて設立され、本店を北区王子二丁目五番地に定めていたが、前項記載のごとく訴外会社の殆んどの資産負債を譲り受けたのち、同年九月一五日に本店を訴外会社の本拠であつた千代田区神田須田町二丁目七番地に移転し、同年同月三〇日に商号を現在のスチユワート商事株式会社と変更した。

(3) 訴外会社は、取締役森茂、同田中繁二および柴田武史を判定の基礎として、法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前のもの、以下同じ。)第二条第一〇号に定める同族会社にあたり、原告は代表取締役森茂、取締役田中繁二および同柴田武史を判定の基礎として、法人税法に定める同族会社に該当するものであるから、訴外会社と原告とは国税徴収法施行令第一三条第一項第七号にいわゆる特殊関係者である。

(4) かくして納税者たる訴外会社が同会社と特殊な関係にある同族会社たる原告に事業を譲渡し、これが譲渡を受けた原告が同一場所において同一事業を営んでいる場合に該当し、かつ当該国税につき訴外会社に対し滞納処分を執行しても、その徴収は不能であるから、原告は、国税徴収法第三八条により第二次納税義務を負担するものである。

三  被告の主張に対する原告の認否および反論

(一)  認否

(1) 被告の主張第(1)項について

訴外会社が昭和三五年六月二一日銑鉄鋳物製品の製造販売および輸出入販売を目的として設立され、本店を千代田区神田淡路町一丁目九番地(昭和三七年八月二〇日に本店を千代田区神田鎌倉町三番地に移転した。)と定めたこと並びに昭和四〇年七月二七日解散し、同年八月二〇日付契約に基づき殆んどすべての資産負債を原告に譲渡して無資産となつたことは認める(ただし、右資産負債の譲渡は国税徴収法第三八条にいう事業の譲渡ではない。)。訴外会社が、昭和四〇年五月二五日に千代田区神田須田町二丁目七番地(訴外株式会社佐藤商店所有ビルの一室)に移転し営業したという点は否認する。

訴外会社が、滞納国税を納付しないまま解散したこと、並びに前記の契約締結にあたり、右滞納国税を除外したとの点はいずれも(滞納国税の存在自体が不知であつたので)不知。

前記の契約の結果、被告が訴外会社に対する国税の徴収不能になつたこと並びに訴外会社の滞納国税の法定納期限については争う。

(2) 同第(2)項について

千代田区神田須田町が訴外会社の本拠であつたことは否認するが、その余の事実は認める。ただし、原告の本店移転時期については登記上の日であつて、実質上はややことなる。

(3) 同第(3)項について

訴外会社および原告が、それぞれ法人税法第二条第一〇号に定める同族会社に該当することは争わないが、その判定の基礎を争う。

従つて、訴外会社と原告会社とが国税徴収法施行令第一三条第一項第七号にいわゆる特殊関係者であるとの点も争う。

(4) 同第(4)項は争う。

(二)  原告の反論

被告が原告に対し、第二次納税義務があると認めた根拠は国税徴収法第三八条であるという。そうだとすれば第二次納税義務は本来の納税者以外の者に納税義務を認めるものであるから、同法条の適用は法の厳格な解釈に基づいて行なわれなければならないことはいうまでもない。法第三八条は、その要件として、

(イ) 納税者と特殊な関係をもつものであること

(ロ) 納税者から事業を譲り受けたものであること

(ハ) 納税者と同一とみられる場所で営業していること

(ニ) 納税者と同一または類似の事業を営んでいること

(ホ) 納税者が国税を滞納していること

(ヘ) 国が滞納処分を執行しても不足すること

(ト) 譲受財産を限度とすること

(チ) 譲渡が法定納期限より一年以上前でないこと

をあげている。いいかえれば、(イ)から(チ)までのいずれか一つにでも該当しない場合は、被告は原告に対して第二次納税義務を課することができない。しかるに、本件において原告会社が右の要件に合致するのは、わずかに(ニ)と(チ)にすぎない。

従つて、被告の原告に対する第二次納税義務に基づく納付告知処分は重大なかしがある。以下その詳細について述べる。

(1) 原告は訴外会社(納税者)と特殊関係者ではない。

被告は、原告が訴外会社の特殊関係者であると主張し、その根拠として、まず訴外会社が森茂、田中繁二および柴田武史を判定の基礎として法人税法第二条第一〇号に定める同族会社であるというが、田中繁二を判定の基礎に加えたことは誤りである(この点について原告の異議申立てに対する被告の棄却決定の理由によると、とくに森茂と田中繁二の二名のみを判定の基礎として当時から不可欠な株主とされていることに留意)。

同族会社の判定には、持株数の最も多いものから順次に株主を選定しなければならないことは、国税徴収法第三五条の同族会社の判定に関する通達によつて明らかであるが、田中繁二は訴外会社の持株わずか三六〇株、第五順位の株主にすぎない。

従つて、この三名を訴外会社・原告会社に共通する判定の基礎として特殊関係性を認定した被告の判定は誤りで、訴外会社と原告とは国税徴収法施行令第一三条第一項第七号にいわゆる特殊関係者ではない。

(2) 原告会社は訴外会社(納税者)から事業を譲り受けたものではない。

訴外会社は、昭和四〇年七月二七日、株主総会の決議により解散した。譲渡契約はその後である昭和四〇年八月二〇日すでに清算会社である訴外会社と原告との間で結ばれたもので、実質は訴外会社の清算事務を原告が代行することにある。

右契約の内容からいつても明らかであるが、資産と負債とはプラス・マイナス完全にゼロであり、原告としてはこの契約によつて利するところは全くない。むしろ訴外会社の取引先や顧客関係の整理の煩雑さなどから、無形のマイナスの面が強かつたのである。

事業の譲渡という概念は必ずしも明確でないが、少なくとも営業の全部または一部が引きつがれ、継続していくものでなければならない。いいかえれば、仕入先や取引先の全部または大部分が引きつがれ、維持されなければならない。

本件では、実質上清算事務の代行にすぎないから、訴外会社の営業ないし事業としてはそこで断ちきられ、原告に引きつがれてはいない。したがつて事業の譲渡とはいいがたいのである。

(3) 原告は訴外会社(納税者)と同一とみられる場所で営業していない。

訴外会社の住所は

(イ) 昭和三五年六月二一日から昭和三七年八月一九日まで 千代田区神田淡路町一丁目九番地

(ロ) 昭和三七年八月二〇日以降 千代田区神田鎌倉町三番地

であり、それ以外にはない。このことは解散後である昭和四〇年八月二〇日の契約の内容からいつても明らかである。

これに対し、原告の住所は

(イ) 昭和四〇年四月五日から昭和四〇年九月一四日まで 北区王子二丁目五番地

(ロ) 昭和四〇年九月一五日以降 千代田区神田須田町二丁目七番地

であつて、それ以外にはない。従つて、訴外会社と原告とは、同一とみなされる場所で営業したことはないのである。

(4) 被告は訴外会社に滞納処分を行なえば徴収できた。

被告は、もし訴外会社に前記のような滞納国税があるとすれば、直接訴外会社に対し滞納処分を行なう等の手段により取立てが可能であつた。右国税(物品税をのぞく。)の法定納期限は昭和四〇年四月一六日であり、その時点、あるいはその後においても十分訴外会社より徴収が可能であつたにもかかわらず、それを行なわず漫然と三年以上もたつた昭和四三年五月一八日に至つて、原告に対し、第二次納税義務ありとして納付告知をしてきたのである。

被告は、可能だつたにもかかわらず、訴外会社に対し、滞納処分の執行をしなかつたのであるから、本件は、かりに訴外会社に滞納国税があるとしても、「滞納処分を執行しても不足」する場合にはあたらない。

(5) 最後に、第二次納税義務は譲受財産を限度とするものでなければならない。

ところで、本件譲渡契約の内容によれば譲受財産はゼロの状態である。従つて、本件のような場合には、原告に第二次納税義務は生じないといわなければならない。

原告会社は、もともとカナダで貿易を営むM・A・スチユワートサンズ会社と合弁して、貿易を営む目的で設立され、準備期間を経て昭和四四年一月には出資率各五〇パーセントの日・加合弁会社となつたものであつて、訴外会社の営業を引きつぐ必要もなければ、その資産の譲渡をうける必要もなかつたものである。前述のように訴外会社の清算事務を代行したにすぎない。しかも被告が第二次納税義務に基づく納付告知をした昭和四三年五月以前においてその清算事務は終了し、訴外会社の資産は完全に消滅した。

従つて、かりに国税は優先弁済債権であつて、譲渡の消極財産は顧慮する必要がないという見解に立つても、原告が納付告知をうけた時点では、第二次納税義務の対象になる譲受財産は消滅してしまつたのである。以上の諸理由により、被告が原告に対して行なつた第二次納税義務に基づく納付告知処分は違法であつて、取消しをまぬかれないものといわなければならない。

四  原告の反論に対する被告の再反論

(一)  原告の反論中(1)の主張すなわち「訴外会社と原告とがそれぞれ法人税法に定める同族会社に該当することは認めるが、その判定の基礎を争い、さらに両会社が特殊関係者に該当しない」との点について

訴外会社は発行済株式数一万株の株式会社であつて、持株数の多い順に株主五名を選定すると、第一順位森茂が三四〇〇株、第二順位柴田武史が二六〇〇株、第三順位中村精器工業株式会社が一二〇〇株(中村精器工業株式会社と特殊関係のある中村弘の持株が第三順位のグループに入るのでこれを加算すると、一六〇〇株となる。)第四順位山口義太郎が六〇〇株、第五順位田中繁二が三六〇株となりこれらの持株数を合計すると八五六〇株で発行済株式数の八五・六%となる。

ところで、法人税法第二条第一〇号(同族会社の定義)は判定会社(滞納会社)の発行済株式の総数のうち、株主等三人以下で五〇%以上保有、株主等四人以下で六〇%以上保有、もしくは株主等五人以下で七〇%以上保有と、このいずれかに該当する場合は同族会社にあたるものと規定している。

右規定は会社の事業経営についての意思決定が少数株主の恣意性に左右される点に着目していることから、判定の基礎となる株主の選定については必ずしも持株数の多い者の順に選定する必要はなく、任意に株主を選定して右規定に合致すれば同族会社と判定されるのである。

従つて、本件の場合のように滞納会社の株主森茂(持株数三四〇〇株)柴田武史(持株数二六〇〇株)および田中繁二(持株数三六〇株)の三名を選定しても、発行済株式総数一万株の六三、六%を右三名で保有しているから同族会社に該当する。

次に、譲受会社の同族判定については滞納会社の同族判定の基礎となつた株主の全部または一部を判定の基礎となる株主に選定すればよいのであるから、森茂(持株数一〇〇〇株)、柴田武史(持株数八〇〇株)、および田中繁二(持株数八〇〇株)の三名を選定すると、発行済株式総数三〇〇〇株の五二%を右三名で保有しているから、譲受会社は滞納会社と特殊関係のある同族会社に該当するのである。

またかりに、右三名のうち田中繁二を判定の基礎となる株主に選定しないで大河内三郎(持株数八〇〇株)または大熊正一(持株数八〇〇株)のいずれかを判定の基礎として選定しても、同様特殊関係のある同族会社に該当するのである。

従つて、訴外会社と原告とは国税徴収法第三八条および同法執行令第一三条に定める特殊関係者に該当するものである。

(二)  原告の反論中(2)の主張すなわち「本件譲渡は事業の譲渡ではなく、訴外会社の清算事務の代行にすぎない」との点について原告は、訴外会社の資産および負債を包括的に譲り受け、かつ、譲り受けた資産負債を自己の財産として貸借対照表に計上し、自己の用に供しているのである。従つて、このことからみても原告が主張する清算事務の代行とはいえないのである。

また、原告が昭和四〇年四月五日に資本金二五〇万円(その後増資して金五〇〇万円となつた。)で発足し、設立第一期の決算期である昭和四一年三月三一日には資産総額金五九五四万一二四〇円に増大していることからしても、訴外会社の事業を引きついで営業した結果であることは明らかである。

(三)  原告の反論中(3)の主張すなわち「原告が訴外会社と同一とみられる場所で営業した事実がない」との点について

原告は、右の理由として訴外会社は商業登記簿に示されている最終の本店所在地が千代田区神田鎌倉町三番地となつていることを挙げ、被告の主張する千代田区神田須田町二丁目七番地に移転営業した事実を否認している。

しかしながら、訴外会社はもと千代田区神田鎌倉町三番地上野ビル四階を賃借し、ここを本店と定めて営業していたが、昭和四〇年五月二五日千代田区神田須田町二丁目七番地にある佐藤ビル(株式会社佐藤商店所有)の二階を賃借(保証金一五〇万円家賃一〇万円)し、営業の用に供するため借室の間仕切等造作を行ない、同年六月二一日に右上野ビルから移転入居した。

なお、同年五月二六日に保証金一五〇万円、六月二四日に六月分家賃金三万四〇〇〇円を支払い、以後毎月家賃金一〇万円を継続して支払つている事実があり、また上野ビルに架設してあつた訴外会社名義の電話(三本)も同年六月二一日に佐藤ビル借室へ移転設置している。

右のとおり訴外会社は移転先千代田区神田須田町二丁目七番地で営業していたものであるところ、原告は、昭和四〇年九月一五日に本店を右訴外会社の所在地(同じ借室)に移転営業していたものであるから、同一場所で事業を営んでいたものと認められる。

(四)  原告の反論中(4)の主張すなわち「被告、訴外に対して滞納処分を執行すれば国税を徴収できた」との点について

原告の右主張は、単なるいいがかりにすぎなく、むしろ訴外会社が滞納処分の執行を回避する意図のもとに第二会社たる原告会社を設立し、事業の譲渡をしたことを糊塗せんがためのものである。現実には被告において訴外会社の滞納処分に着手しようとしたところ、商業登記簿上の本店所在地に訴外会社が見当らず、移転先を調査中のところ、昭和四〇年一一月に至り原告会社の本店所在地と同一場所に移転したことが判明した。しかしながら、原告会社の名称で営業していたため、訴外会社との関連が判明せず、昭和四一年四月に至つて訴外会社の監査役兼税理士佐藤寛と接触し、本件事業の譲渡の事情が判明したものである。

従つて、訴外会社は無財産のため徴収不足を生じたものである。以上述べたように被告の原告に対してなした第二次納税義務に基づく納付告知処分は、いずれの点よりしても違法の点は存在しない。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  被告が昭和四三年五月一八日、原告に対し、訴外会社を納税者とする原告主張の国税等につき、金五一五万九六五〇円を限度額として第二次納税義務に基づく納付告知をしたこと、原告が同年六月一八日被告に対し異議の申立てをしたが、同年九月二一日右申立ては棄却され同年一〇月二四日右棄却決定の謄本が原告に送達されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告は、右告知処分は国税徴収法第三八条に基づくものであつて、訴外会社と特殊関係者にあたる原告が、同会社より事業の譲渡を受けて、同一場所で同一営業を営んでいたので、被告は原告が訴外会社の滞納国税につき、第二次納税義務があるものと認めて、これが納付告知をしたものであると主張するのに対し、原告は、被告の主張する右の事実関係をすべて争うので、まず、原告と訴外会社とがいわゆる特殊関係にあるか否かの点について判断する。

三  国税徴収法第三八条は、本来の納税者より事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務を定め、その義務者としての要件を、納税者の「親族その他納税者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令に定めるもの」と規定し、これをうけて国税徴収法施行令(以下単に施行令とも表示する。)第一三条が、右にいう「政令で定めるもの」の範囲を規定している。被告は、原告が訴外会社(納税者)に対して、右施行令第一三条第一項第七号に定められた関係を有する同族会社であると主張し、その根拠として次のように述べている。即ち、訴外会社は発行株式数一万株の株式会社であつて、そのうち持株数の多い順に株主五名を選定すると、第一位は森茂で持株数三四〇〇株、第二位は柴田武史で持株数二六〇〇株、第三位は中村精器工業株式会社で持株数一二〇〇株(中村精器工業株式会社と特殊関係のある中村弘の持株を加算すると一六〇〇株となる。)、第四位は山口義太郎で持株数六〇〇株、第五位は田中繁二で持株数三六〇株であるが、このうち森茂、柴田武史および田中繁二の三名の持株数を合計すると総株数の六三・六%となり、法人税法第二条第一〇号イにいう株主等三名以下で五〇%以上保有の場合にあたるから、訴外会社は同族会社にあたり、かつ、森茂、柴田武史、田中繁二は、施行令第一三条第一項第七号にいう同族会社の判定の基礎となつた株主にあたる。次に原告の発行済株式総数は五〇〇〇株であるが、そのうち森茂は一〇〇〇株、柴田武史、田中繁二は各八〇〇株宛を所有し、右三名の持株数を合計すると総株数の五二%となる。従つて原告会社もまた法人税法第二条第一〇号イによつて同族会社とされ、かようにして原告は訴外会社に対し施行令第一三条第一項第七号所定の関係に立つというのである(訴外会社における田中繁二の持株数については当事者間に争いがなく、また、原告および訴外会社の各発行済株式数および各株主の持株数に関する被告の主張((ただし、前示田中繁二の分を除く。))については、原告において明らかに争わないから、これを自白したものと認めるべきである。)。

四  しかし、右の見解は、法人税法の解釈を誤まつたものである。

法人税法第二条第一〇号によれば、株式会社たる同族会社とは、(イ)株主の三人以下およびこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する会社、(ロ)株主の四人およびこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の六〇%以上に相当する会社、(ハ)株主の五人およびこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の七〇%以上に相当する会社のいずれかに該当するものを指称するところ、そもそも、同族会社を法人税法上特別に規制する理由は、同族会社においては、少数の株主によつて会社の意思決定が支配される可能性が強く、これがため非同族会社にみられないような特殊な取引、経営がなされること等が多いことによるものと考えられるから、同族会社か否かを判定する実質的条件は、最少限の株主によつて会社の支配が可能な場合には、直ちにこれによつて充足されると解するのが相当である。即ち、例えば右に示した(イ)の基準に該当する会社については、既に三人以下の株主で会社の運営の支配が可能であつて、それだけで同族会社と判定しうる以上、右会社がさらに(ロ)または(ハ)の基準にも該当するからといつて、この点まで同族会社と判定する基準に加えるのは全く無意味である。逆にいえば、(ロ)または(ハ)の基準は、それぞれ株主の三人以下およびその同族関係者だけ、または株主の四人およびその同族関係者だけでは会社を支配する可能性が生じないと考えられる場合に、はじめて会社の支配可能性を認識させる独自の基準としての意味をもつものと解すべきである。同様にして、さらに(イ)の基準に該当する会社のうちには、いうまでもなく株主が一人または二人だけでその運営を支配することが可能とみられる場合(即ち五〇%以上の株式を保有する場合)もあるが、そのような場合は、右会社はその一人または二人の株主によつて同族会社と判定されるのであつて、その余の株主は、すべてその会社の運営上実質的な影響力はないと観念され、従つてこれらをその会社の同族判定株主の範囲に含ましめる合理的根拠は全くない。この点と異なる被告の見解は、当裁判所のとらないところである。

以上のような当裁判所の見解に基づいて被告の主張をみるのに、訴外会社は、すでに第一位の株主である森茂と、第二位の株主である柴田武史との持株数をあわせると総株数の六〇%となつて、法人税法第二条第一〇号イにより同会社は同族会社と判定されるのであるから、右両名は訴外会社の同族判定株主ということができるが、田中繁二は同族判定の株主ということはできないのである。

五  かようにして、次に、森茂と柴田武史の両名が、訴外会社の同族判定株主であるとすれば、この両名またはどちらかの一名を判定の基礎として原告が同族会社と認められるか否かが問題となる。

蓋し、施行令第一三条第一項第七号は、「……その判定の基礎となつた株主又は社員……の全部又は一部を判定の基礎として同族会社に該当する他の会社」と規定し、「判定の基礎の全部又は一部として」とは規定していないし、実質的にいつても、第二次納税義務者としての責任を負担させるような特殊関係を認めるためには、単にその会社と滞納会社との間で双方の同族判定株主の一部だけが共通でありさえすれば足りると解すべきではなく、その会社が滞納会社の支配的な株主の全部又は一部によつて完全に一方的な支配を受けうる程度の従属的関係に立つことを必要とすると解するのを相当とし、施行令第一三条第一項第七号の規定するところも、その趣旨であると解すべきである。この点につき、被告は、原告の同族会社性につき、森茂、柴田武史および田中繁二の三名を判定の基礎とせず、森茂(持株数一〇〇〇株)、柴田武史(持株数八〇〇株)、および大河内三郎(持株数八〇〇株)または大熊正一(持株数八〇〇株)のいずれかを判定の基礎として選定した場合でも同族会社に該当すると述べ、恰も森茂、柴田武史の両名のみが共通の同族判定株主であつて、しかも原告会社については、右両名は同族判定者の一部にしかなつていなくとも施行令第一三条第一項第七号の要件が充たされるかのごとき主張をしているが、この見解は前記のとおり当裁判所のとらないところである。

してみれば、被告主張の持株数によつて計算するならば、原告は、森茂と柴田武史の両名のみを判定の基礎とした場合は、両名の持株数を合計しても総株式数(五〇〇〇株)の三六%にしかならないから、いまだ同族会社と判定することはできず、原告は訴外会社との間で、施行令第一三条第一項第七号にいう特殊関係者に当るものとはいえないし、他にこれを肯認するに足りるような主張立証もない。

六  してみれば、原告は訴外会社に対する関係で、国税徴収法第三八条にいう特殊関係者に該当するものとはいえないので、その余の判断をまつまでもなく、同条に基づく第二次納税義務を負担しないことは明らかである。しかるに被告は、原告が同条に基づいて訴外会社の第二次納税義務を負担するものとの前提で、本件納付告知をなすに及んだものであるから、右納付告知は違法たるを免れず、これが取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるのでこれを正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 高津環 小木曾競 海保寛)

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